愛されているとはとても思えない瞬間私は激痛をも忘れる
2006年 09月 05日
弱冠7歳の息子にタックルされた
愛する息子にタックルされるという喜びにひたりながら私は微笑みつつも転倒した
壁と天井が回るのをスローモーションの16ミリフィルムのコマまわしよろしくながめつつ、布団がしいてあるはずの柔らかい地面を想像していた私は後頭部を何かに強打した
頭蓋骨が軋むきしむきしむきしむきしむきしむきしむきし む
呻くうめくうめくうめくうめくうめ く
泣く怒濤のように泣 く
隣の部屋でテレビを見ていた夫が、またアホが馬鹿やってからに、と呻く私のそばにやって来て笑いながら聞いた
「お前らなにやってんの」
何もやってない。ただひたすらいたいのじゃ、とにかく何がどうなったかワカランのじゃはやくいしゃつれてけや、はよう、
たのむわ、ひとつ
「おかあさん、どうしたん?」
夫の質問に愛する息子は泣き出した。わんわんないてわけのわからんことをいっている
私をかまってくれ、おねがいだ。私はもしかしたらいままさに死んでしまうかもしれない。
だからお願いだから、原因など息子にのんびり尋ねていないで私に駆け寄ってくれ、お願いだから
私の脳細胞は今まさに壊死しようとしているのかもしれないのだから
息子がひたすら泣きまくるのを、とぼけた夫はなおものんびりと悠長にいつもよりも気長に息子を問いただす
「お母さん、なんで死んだふりしてるん?」
死んだふりなどしていない、私は今まさに死にかけているのだ
私の後頭部はおそらくぱっくりと割れてあたりは血の海なはずなのに、なぜお前はそんなにのんきなの
だやっと夫が私のそばへ来た。そうだそうだ、それでいい。早く私の後頭部のおぞましい惨状に気づいて悲鳴をあげるがいい
のだ。コトの重大さに気づくだろう、そして私に泣きながら
「こんな状態だったのに、気づかなくてごめん!」と泣いてわびるのだ
「どしたん?」
笑いまじりではないか!どしたん?、って、あんた。みればわかるであろうが?私は今瀕死の重傷にあるというのに
なんと鈍感な男なのだろう。以前から鈍いやつだと思ってはいたが。ここまで鈍感だとは思いもよらなかった。
もし一命を取り留めたなら、私は絶対こんなやつと離縁してやる。絶対だ
「おい、おかあさんどうしたんや?呻いてるだけでわけわからん」
やっと夫の声に緊張感がみなぎって来た。そうそう、その調子。やっとことの重大さに気づいたか。
夫は私を抱き起こそうとする。
馬鹿ア、何をするのだ。頭を打っている時は動かしてはいけないのではないか?
そんな事をしたら、一気に脳内出血であの世行きじゃないのか?
「アワアワ言ってないで、ちゃんと話せや、情けない格好やなあまったく。大人やろう!」
情けない格好、とな?情けのないのは夫の方ではないか。瀕死の重傷の人間対して、ちゃんと話せはないだろう。
話したくてもはなせないのだ。「大人やろう」は夫が私に対してよく使う口癖だった。今はそんな事はどうでもいい。
早く救急車を呼ぶなり、病院へそっと連れていくなりしてくれ
ええい、らちがあかない。金縛りに遭ったように動かない体に、チカラが全く入らない。
それでもなんとか手をのばす事が出来たので、あたまに手をやっていった
「あ....た....ま....う........った」
次の瞬間、信じられないことに夫は私の後頭部を無造作に手でさぐった。
激痛が頭蓋骨を駆け巡り私の目からは涙が滝のように溢れた。ようなきがしたがそれほどでもなかった。
「なんもなっとらんけど、大袈裟ちゃう?」
次の瞬間私はその場にすっくと立ち上がり、絶叫していた
「もっと心配せえや!」
by kate_matsushima
| 2006-09-05 11:27
| 詩